主人公のビクター・ナボルスキーは「国籍を失い」「滞在も帰国もできない」という大変な状況に置かれます。
ですが、主人公が大変な状況にも関わらず、深刻にならないのは、ちょっとしたラブロマンスが織り交ぜられたり、コメディタッチの映画だからかもしれません。
映画が公開されたのは2004年、企画や撮影はもっと前ですので、2001年9月11日にイスラム過激派テロ組織アルカイーダによって行われたアメリカへのテロ攻撃の影響がまだ残っている時期の映画です。
アメリカでは安全保障や国家の境界への意識が高まり、愛国主義と他者への警戒心が高まり、移民や異国の人々に対しては不信が強まっていた時期です。
アメリカの社会が不安定な状況にあって、監督のスピルバーグは、笑わせて泣かせ、世界に希望を抱かせる映画をつくりたかったそうです。
そのためでしょうか。映画にはポスト9.11の暗澹とした世の中に、優しさの物語を届けようとした意図が感じられます。
感想/コメント
映画は空港をメインの舞台としており、そこで働く様々な人たちが登場します。
映画のモデル
本作のモデルの一つは、イラン難民メフラン・カリミ・ナッセリ氏がパリの空港で多年にわたり滞在した実話だとされます。
1988年8月8日以来フランスのパリ=シャルル・ド・ゴール空港の出発ロビーで生活をしていたことで知られます。
本作のDVDや公式ウェブサイトにはナーセリーの名は登場せず、創作のように示唆されますが、ドリームワークスがナーセリーに映画化権料として25万ドルを支払ったとガーディアン紙が報じました。
官僚主義 の象徴性
スタンリー・トゥッチ演じるディクソンは、国家と秩序の代理人として容赦ない官僚主義を体現しています。
彼のキャラクターは、言葉も通じない他者に対する無理解さの象徴とも言えるかもしれません。
一方で、ビクターの誠実さと人間らしさは、空港という無機質な空間のなかで温もりをつくり出し、人間は制度を超えて繋がれるという希望が示されているように感じられます。
空港コミュニティ
空港は多様性と連帯の縮図として描かれます。
ヴィクターは清掃係、荷物係、空港職員たちと関わり、徐々に家族的なコミュニティを築いていきます。
インド系、アフリカ系、ラテン系などの多様な背景を持つ人々が一つの場に集い、それぞれに尊重される様子は、アメリカの多民族社会の縮図です。
ビクターの帰還
ビクターが終盤に「I’m going home」と呟くシーンは、単なる帰還以上の意味を持ちます。
どんなに制度に囚われても、人間は家に帰りたい、つまり自分らしく生きたいと願うのだと、しみじみ感じさせられました。
映画情報(題名・監督・俳優など)
監督 / スティーヴン・スピルバーグ
製作 / ローリー・マクドナルド、ウォルター・F・パークス、スティーヴン・スピルバーグ
製作総指揮 / ジェイソン・ホッフス、アンドリュー・ニコル、パトリシア・ウィッチャー
原案 / アンドリュー・ニコル、サーシャ・ガヴァシ
脚本 / サーシャ・ガヴァシ、ジェフ・ナサンソン
撮影 / ヤヌス・カミンスキー
プロダクションデザイン / アレックス・マクダウェル
衣装デザイン / メアリー・ゾフレス、クリスティーン・ワダ
音楽 / ジョン・ウィリアムズ
ビクター・ナボルスキー / トム・ハンクス
アメリア・ウォーレン / キャサリン・ゼタ=ジョーンズ
フランク・ディクソン / スタンリー・トゥッチ
レイ・サーマン / バリー・シャバカ・ヘンリー
ジョー・マルロイ / シャイ・マクブライド
エンリケ・クルズ / ディエゴ・ルナ
ドロレス・トーレス / ゾーイ・サルダナ
グプタ・ ラハン / クマール・パラーナ
サルチャック / エディ・ジョーンズ
ミロドラゴビッチ / ヴァレラ・ニコラエフ
空港職員 / スティーブン・メンデル
カール / ジュード・チコレッラ
ウェイリン / コリー・レイノルズ
ナディア / リニ・ベル
モニカ / カーリース・バーク
ベニー・ゴルソン / ベニー・ゴルソン
クリフ / ダン・フィナティ
吉野家マネージャー / ジム・イシダ
スウォッチマネージャー / ステファン・フラー
ルーシー / サーシャ・スピルバーグ
ニュースキャスター / ディルヴァ・ヘンリー
CBP局員 / ジョン・エディンズ
店員 / リディア・ブランコ
女性 / スーザン・スローム
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