物語の舞台となるのはパラレルワールドのイギリス、オックスフォードです。
この世界では誰もが動物の形をしたダイモンと呼ばれる自分の分身と共に生きています。
パラレルワールドということになっているのですが、どうやら、あちらの世界の方が何かとすすんでいるようです。
動力源不明の「馬車」や、快適に飛行しているように見える飛行船…などなど。映像は綺麗だし、期待させる出だしです。
やや興ざめだったのは、最初のテロップで、本作品は3部作品の第1作目である、と宣言した点です。
映画会社としては、「あと2作品撮るから、よろしくねぇ」とでも言いたいのでしょうか?
主人公は12歳の少女ライラ・ベラクア。
そして、ライラのダイモンはパンタライモン。
少女のライラのダイモンはかたちが定まっていません。
大人になるとダイモンのかたちは定まるのですが、まだ不安定に色んなものに変化します。
この色んなものになめらかに変化していく様子は見物です。一方で鬱陶しいと思う人もいるかもしれません。
ライラは幼いころに両親を亡くし、オックスフォード大学のジョーダン学寮で育てられています。
おじのアスリエル卿がライラの教育のために入れたのです。
もっとも奔放なライラを普通の家庭にあずけて育てるのは無理だからという思惑もあったのでしょう。
そんなことはお構いなしに、ライラは親友のロジャーたちと騒がしい毎日を送っていました。
そんなライラの毎日が一変します。
子供たちが次々と連れ去られ、ついには親友ロジャーまでもが姿を消してしまったのです。
ロジャーが消えたことを知らないライラ自身もコールター夫人に連れられジョーダン学寮から旅立つことになります。
もっともすぐにロジャーがいなくなったことを知るのですが。
子どもが連れ去られて、その子どもたちを子どもが救い出すというのは、やはり児童文学であるから仕方のないことではあります。
このノリで行くと、おそらくライラが世界を救うという風になるのでしょうか?
そして、その旅立ちの日、ライラは学寮長から「黄金の羅針盤」を渡されます。
この「黄金の羅針盤」は使う人が思い願ったことを告げてくれるのだそうです。
ですが、正当な持ち主でなければ、正しい返事をしてくれないという設定のようです。
重要なアイテムが特定の人物に結びつけられるというのはファンタジーの王道です。
そうそう、この「ライラの冒険」シリーズというのは「魔法」が出てきません。
魔法が出てこなければファンタジーじゃないと思っている人にとっては、物足りないでしょう。
もしかしたら、ファンタジーではないと感じるのかも知れませんが…
ですが、しゃべるクマがでてきますし、空を飛ぶ魔女も登場しますから、「魔法」好きのファンタジー・ファンも納得なのではないでしょうか?
2時間弱の映画ですが、映画の長さは感じさせません。
逆に、長くした方がよかったのではないかとすら思います。
というのは、(原作を知らないのですが)だいぶ端折っているのではないかと思えるからです。
脚本の時点で端折ったのか、それとも公開前にカットした場面が多かったのか(後者ではないかと思いますが…)、いずれにしても、ストーリーの展開に無理があるからです。
ストーリーを追うことは出来ますが、展開がものすごく速いため、その展開の速さにまぎれて、ストーリー展開がおかしいことを見過ごしがちです。
一例を挙げましょう。
アスリエル卿が、「ダスト」の秘密を探るために北へ行きます。
その前に、大学で報告を行うのですが、その報告が終わったあとから、北へ向かうまでの間に、「なにかがあったはず」です。
そして、北へ向かったアスリエル卿が捕らえられることになるのですが、捕らえられた後で何があったのか明確にされていません。
極めつけは、こうしたことが、「ストーリー上何か関係があるのか?」ということです。
まったくライラの行動には関わっていないように思えます。
おそらく、アスリエル卿の一連の行動は、何らかの意味を持ち、それがライラの行動にも関連しているのでしょうが、映画を見ている限り、独立したバラバラの話となっており、登場している意味が分かりません。
普通ならカットです。
他にもおかしい点が結構あります。それは、コールター夫人の行動についてもそうです。
展開がおかしなことになっているのは、おそらくはカットのしすぎのせいではないかと思います。
ディレクターズカットが存在するなら、是非そちらを見てみたいものです。
それにしても、あの終わり方はまずいです…。
最初に「あと2作品撮るから、よろしくねぇ」と宣言して、終わり方も続きがありますよ的なのは、如何と思いますが?
映画情報(題名・監督・俳優など)
ライラの冒険 黄金の羅針盤
(2008)
監督:クリス・ワイツ
原作:フィリップ・プルマン
「黄金の羅針盤」
脚本:クリス・ワイツ
撮影:ヘンリー・ブラハム
視覚効果スーパーバイザー: マイケル・フィンク
衣装デザイン: ルース・マイヤーズ
音楽:アレクサンドル・デスプラ
出演:
ライラ・ベラクア/ダコタ・ブルー・リチャーズ
コールター夫人/ニコール・キッドマン
アスリエル卿/ダニエル・クレイグ
リー・スコーズビー/サム・エリオット
セラフィナ・ペカーラ/エヴァ・グリーン
第一評議員/クリストファー・リー
ファーダー・コーラム/トム・コートネイ
教権の密使/デレク・ジャコビ
ロジャー/ベン・ウォーカー
フラ・パベル/サイモン・マクバーニー
ファー統領/ジム・カーター
マ・コスタ/クレア・ヒギンズ
学寮長/ジャック・シェパード
家政婦ロンズデール/マグダ・ズバンスキー
ビリー・コスタ/チャーリー・ロウ
声の出演:
イオレク・バーニソン/イアン・マッケラン
パンタライモン/フレディ・ハイモア
ラグナー・スタールソン/イアン・マクシェーン
ステルマリア/クリスティン・スコット・トーマス
ヘスター/キャシー・ベイツ
続編情報
2007年に公開された映画『ライラの冒険 黄金の羅針盤』の続編の製作が断念された。
興業成績が悪かったが、その理由が、次の通りとは、いやはやなんとも…
カトリック系の宗教団体である北米カトリック連盟が、この映画が子どもたちに無神論を勧めているとして、劇場へ行かないよう、またプルマンの原作を読まないようボイコット運動を呼びかけたことから、アメリカでは思ったほど興業成績が伸びなかった。
挙句の果てに、
北米カトリック連盟は「とても喜ばしい。興業成績が良くなければ続編の製作に影響するとわかっていた」とボイコットの成果を称えている。
これは許されて、北朝鮮の妨害は表現の自由を侵害すると主張する国。どうよ?
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