「ジャンゴ 繋がれざる者」は、クエンティン・タランティーノ監督が、スパゲッティ・ウェスタン様式を大胆に借用し、暴力的復讐を通じて奴隷制度への批判を行った映画です。
タランティーノ特有の、過激な暴力描写とスタイリッシュな演出が特徴の映画で、物語は、奴隷のジャンゴ(ジェイミー・フォックス)が賞金稼ぎシュルツ(クリストフ・ヴァルツ)と手を組み、妻を救うというものです。
しかし、その過激な暴力描写や、頻繁な人種差別言葉の使用は、多くの批判を呼びました。
スパイク・リー監督は「アメリカの奴隷制はホロコーストだった」と強く反発し、敬意を欠いた描写だと批判しています。
一方で、本作は黒人ヒーローの存在を描いた点で画期的とも言えます。
ジャンゴは助けられる存在ではなく、復讐と救済を自らの手で実行に移す主体です。
ジャンゴという自由人像に対する観客の感受性が試されていると言ってもいいかもしれません。
感想/コメント
舞台となったアメリカ南部と人種差別の構図
本作は1858年、アメリカ南部において奴隷制度が厳然と維持されていた時代が舞台です。
ジャンゴら黒人奴隷は理不尽な搾取と残虐を強いられていました。
南部社会のヒエラルキーは人種によって操作されていたことも描かれています。
一方で、KKKを彷彿させる一団の登場場面では、白人至上主義集団が愚か者として、皮肉を込めて描かれていました。
「自由人」としてのジャンゴの意味
ジャンゴはシュルツによって自由な身となり、その後バウンティハンターとして力をつけ、妻ブルームヒルダを救出する旅に踏み出します。
ここで描かれる自由人とは、制度や抑圧に屈せず、自らの運命を武力と意志で切り拓く者の象徴です。
しかし、ジャンゴの自由はシュルツとの「契約」によって初めて与えられたものでした。ジャンゴの自由は完全自立ではなかったのです。
シュルツは奴隷制度は嫌いだと言いつつも、君が協力すれば自由をやろうと条件を提示し、ビジネスの枠組みの中でジャンゴを解放するのです。
その意味でジャンゴは、アメリカ社会における、個人の努力で全てを乗り越えるという神話の象徴ともいえます。
シュルツが象徴するもの
シュルツは、白人ながら奴隷制度に道徳的抵抗を示し、ジャンゴに自由の機会を与える存在です。
シュルツはホワイト・セイヴィア(白人救世主)を体現していますが、複雑な意味を帯びています。
シュルツはジャンゴを子どものように導き、自由へ導く役回りを果たしています。
一方で、最終的にはジャンゴの妻を救出する際に自己犠牲をもって身を投じ、命を落とします。
白人による救済という構図を描きながらも、シュルツ自身の良心が動いた結果であり、利他的行為では語れません。
シュルツはヒロイックに命を落とし、ジャンゴは自由人として立ち上がる転機を得ることになります。
シュルツの死は悲劇ですが、ジャンゴにとっては新たなスタートと言える瞬間です。
南部社会に根差した人種差別が制度として描かれる本作において、ジャンゴは自由人として、人種差別制度との戦いを、自己の意志で行う象徴でした。
ジャンゴの自由はシュルツという白人の手によって与えられたものであり、シュルツは物語上の白人救世主の役割を担いながら、自らの信条ゆえに命を落とします。
ジャンゴはシュルツの死を契機に、真の自由と自立を手に入れたのです。
映画情報(題名・監督・俳優など)
監督 / クエンティン・タランティーノ
製作 / ステイシー・シェア、レジナルド・ハドリン、ピラー・サヴォン
製作総指揮 / ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン、マイケル・シャンバーグ、シャノン・マッキントッシュ、ジェームズ・W・スコッチドポール
脚本 / クエンティン・タランティーノ
撮影 / ロバート・リチャードソン
プロダクションデザイン / J・マイケル・リーヴァ
衣装デザイン / シャレン・デイヴィス
編集 / フレッド・ラスキン
出演
ジェイミー・フォックス / ジャンゴ
クリストフ・ヴァルツ / Dr.キング・シュルツ
レオナルド・ディカプリオ / ムッシュ・キャンディ
ケリー・ワシントン / ブルームヒルダ
サミュエル・L・ジャクソン / 執事スティーブン
ドン・ジョンソン / ビッグ・ダディ
ウォルトン・ゴギンズ / ビリー・クラッシュ
デニス・クリストファー / モギー
ローラ・カユーテ / ララ
M・C・ゲイニー / ビッグ・ジョン・ブリトル
クーパー・ハッカビー / リル・ラージ・ブリトル
ドク・デュハム / エリス・ブリトル
ジェームズ・ルッソ / ディッキー・スペック
トム・ウォパット / 連邦保安官
ジェームズ・レマー / エース・スペック/ブッチ・プーチ
アトー・エッサンドー / ダルタニアン
ドン・ストラウド / 保安官
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