第二次世界大戦直後のウィーンを舞台にしたフィルム・ノワールです。サスペンス映画でもあります。
フィルム・ノワールなので、悪役がいます。本作ではハリー・ライム役のオーソン・ウェールズがそれにあたります。人を食ったようなヒールです。
明りに照らされて、顔が見えた瞬間の表情が印象的です。あ~~あ、見つかっちゃったぁ、とバツが悪そうな表情なのです。
この映画はウィーンを舞台にしていますが、ローマの休日とは違って、名所が随所に登場するわけではありません。
ウィーンは第二次世界大戦で破壊され荒廃しており、復興の途中ということもあったのでしょう。
脚本を担当したグレアム・グリーンは1948年の2月に四分割統治下のウィーンをつぶさに観察したそうです。
そして、ペニシリンの密売やウィーン地下の巨大な下水道は、ウィーンに滞在中に見聞した体験を参考にしています。
コメント
ハリー・ライムのテーマ
この映画のメインテーマ曲を耳にしたことがある人は多いと思います。
アントン・カラスによる曲で、チター(ツィター)の音色が印象的です。チター以外でのアレンジも多い曲ですが、やはり、チターが一番いいです。
「ハリー・ライムのテーマ」とも言われます。
名セリフ
観覧車の中での場面。
「ボルジア家支配のイタリアでの30年間は戦争、テロ、殺人、流血に満ちていたが、結局はミケランジェロ、ダヴィンチ、ルネサンスを生んだ。
スイスの同胞愛、そして500年の平和と民主主義はいったい何をもたらした?
鳩時計だよ」
このセリフに同意はしませんが、フィルム・ノワールらしい名セリフでしょう。
偉大な芸術を生まない世の中であったとしても、つまらない世の中であったとしても、平和な世の中のほうがいいに決まっています。
雑記
グレアム・グリーンはカトリックの倫理をテーマに据えた作品を多く発表した作家でした。ノーベル文学賞の有力候補と言われ続けましたが、受賞していません。
映画の企画・立案は、イギリス人の映画プロデューサーのアレクサンダー・コルダ。オーストリア=ハンガリー帝国時代のハンガリー出身で、破壊される前のウィーンを知っていました。
ウィーンに対するコルダの思い入れが、第二次世界大戦で破壊され荒廃したウィーンを舞台にした映画制作の動機となったと言われているそうです。
あらすじ/ストーリー
ウィーン到着
オーストリアのウィーン。
第二次世界大戦後、ウィーンは米英仏ソによる四分割統治下にあった。
ホリー・マーチンスは、親友ハリー・ライムから仕事を依頼され、ウィーンへやってきた。
ホリー・マーチンスはアメリカの売れない西部劇作家だ。
さっそくライムの家を訪ねるが、誰も出てこない。
門衛がホリーにライムが自動車事故で前日に死亡したと告げた。
ウィーンについて早々の不幸に意気消沈するホリーはライムの葬儀に出席するために墓地に向かった。
そこにはイギリス軍のキャロウェイ少佐も葬儀に同席していた。
葬儀が終わり、帰ろうとするホリーをキャロウェイ少佐が車で送ってくれると申し出た。
車で墓地を去るときに、一人の女性を追い抜いた。女性はライムの葬儀に参列していた女性だった。ライムとの関係は分からない。
ライムの事故死
ホリーはライムが死んだ状況をもっと詳しく知りたかった。
そうしたホリーに少佐は忠告した。ライムが闇取引をしていると告げたのだ。ライムはホリーが考えているような人物ではないという。
信じられないホリーは、それを聞いて憤慨し、事件の真相究明を決意する。
ホリーには早々に帰国するように少佐は忠告し、それまでの間、少佐の計らいでホテルを用意される。
そうしたなか、GHQのクラビンがホリーが小説家であることを知り、講演を依頼した。
その間の滞在費を払うという条件だ。
ホリーは、事件の真相を突き止めたいこともあり、この話に乗った。
クルツ男爵
ホリーはクルツ男爵と名乗る人物から電話を受けて会う約束をした。クルツ男爵はライムの友人だという。
そして、ライムの死亡した事故現場で、その時の様子を聞いた。
事故の時に一緒にいたのはクルツ男爵のほか、ルーマニア人のポペスクと、後から駆け付けたライムの主治医のビンケル医師だけだった。
アンナ・シュミット
クルツ男爵も葬儀に出席していたので、ホリーは葬儀で見かけた女性のことを聞いた。
女性はライムの恋人で、女優アンナ・シュミットだという。
ホリーはアンナを訪ねてみた。
ホリーはアンナと一緒にライムのアパートの門衛から話を聞くことにした。
ホリーがドイツ語が分からないため、アンナに通訳をお願いした。
すると、ライムの遺体を運んだ男が三人いたことを知る。第三の男がいたのだ。
門衛は厄介ごとに巻き込まれたくないので話さなかったのだという。
アンナのアパートがキャロウェイ少佐らにより調べられた。
アンナはパスポートを没収されてしまう。偽造の疑いがある。
そして、アンナにクラビンの行方を知らないかと聞いた。
ライムらと組んでいるはずの病院関係者だが、姿を消しているのだ。
不審な動き
ホリーは、ライムの死が、事故ではなく殺人だということをキャロウェイ少佐に伝えるが信じてもらえない。
ホリーは、ライムの事故の際に彼を診たビンケル医を訪ねて、状況を聞いた。
ビンケル医師はライムの主治医だという。
駆け付けた時には、ダメだったという。
ホリーはアンナと、あるクラブに向かった。
そこにはクルツ男爵がいた。そして、ポペスクも。
だが、話をしても得ることがなかった。
逆に、二人にはホリーの動きが伝わり、目配せをした…。
目撃者の死
もう一度門衛に話を聞きに行こうとホリーとアンナは向かったが、様子がおかしい。
門衛が殺されたらしい。そして、幼い子供が、ホリーが門衛を会っているところを見ていたので、殺人犯として疑われてしまう。
慌てて逃げる二人。二人は映画館に逃げ込み、アンナは劇場に向かい、ホリーはキャロウェイ少佐に会いに行くことにした。
だが、司令部に向かおうとタクシーに乗ったマーティンスは、講演会場に連れていかれてしまった。
それは、クラビンと約束をしていた講演だった。
講演は散々で、聴衆はどんどんと去っていった。
そこにポペスクが男達と現れた。
危険を感じたホリーは、その場から逃げた。
容疑の内容を知る
ようやくキャロウェイ少佐のところにたどり着いたホリーは少佐からライムにかけられている容疑のすべてを聞かされた。
それは、ライムが大量のペニシリンを水で薄めて密売し、多数の人々に被害を与えたというのだ。
実際に病院に連れていかされ、何が起きているのかを見せられた。
ホリーはここにきて、真実が何かを知った。
ホリーは飲まずにいられなかった。
そして、酔った勢いで真実をアンナに告げた。
その帰り道、ホリーは自分を尾行していると思われる男に気が付き声をかけた。
建物の入り口に隠れていた男の顔が、見えた。
ライムだ・・・。
地下下水道
ホリーは慌てて追いかけるが、途中で見失ってしまった。
ホリーはキャロウェイ少佐を連れて、見失った周辺を調べてみると、地下下水道に通ずる入り口があった。
少佐は、もしかしてライムが生きているのではないかと思うようになり、ライムの墓を掘り起こして遺体を確認させた。
棺桶の中は別人だった。行方が知れなかったクラビンだった。
すり替えられていたのだ。ライムは生きている。
アンナは占領四国の協定により、偽造パスポートの所持でソ連側に連行されてしまう。
ホリーは、アンナにライムが生きていることを伝え、キャロウェイ少佐も、アンナにライム生存を知らせ探りを入れた。
だが、アンナはライムの情報を持っていない。
ホリーはクルツ男爵を訪ねた。
そして、伝言を頼んだ。プラーターの観覧車で待つと。
観覧車
観覧車で待っていると、ライムが姿を現した。
二人で観覧車に乗った。
ホリーはライムに自首を勧められたが、聞く耳を持たない。
そして、ライムはホリーに仲間にならないかと誘った。
アンナが釈放され、列車でウィーンを去ろうとしていた。
駅でホリーを見かけたアンナは、彼がライムを売ったことを知った。そして、すぐさま列車を降りた。
追い詰める
ホリーの元に姿を現したライムは、その場にいたアンナに罠だと教えられ、脱兎のごとくにげた。
そして、下水道に逃げ込み、逃亡を図ろうとするが、キャロウェイ少佐らは人員を配置してライムの逃亡を阻止しようとしていた。
追いつめられたライムは銃撃してきた。キャロウェイ少佐の部下が被弾して死亡した。
そして、ライムもキャロウェイの銃弾を浴びる。
逃げるペイン。追うホリー、キャロウェイ少佐。
そして、ついにホリーは排水溝から這い出そうとしているライムを見つけた。
葬儀
ライムの埋葬が行われた。
葬儀が終わり、キャロウェイ少佐に空港まで送ってもらうことになっていたホリーは、車がアンナを追い抜いたところで、車から降ろしてもらった。
遠くから歩いてくるアンナ。それを待つホリー。
だが、アンナはホリーを一瞥もせずに前を通り過ぎた・・・。
映画情報(題名・監督・俳優など)
第三の男
(1949年)
監督:キャロル・リード
製作:キャロル・リード,デヴィッド・O・セルズニック,アレクサンダー・コルダ
原作:グレアム・グリーン
脚本:グレアム・グリーン
撮影:ロバート・クラスカー
音楽:アントン・カラス
出演:
ホリー・マーチンス/ジョゼフ・コットン
アンナ・シュミット/アリダ・ヴァリ
ハリー・ライム/オーソン・ウェルズ
キャロウェイ少佐/トレヴァー・ハワード
ペイン軍曹/バーナード・リー
門衛/パウル・ヘルビガー
クルツ男爵/エルンスト・ドイッチュ
ポペスク/ジークフリート・ブロイアー
ビンケル医師/エリッヒ・ポント
クラビン/ウィルフリッド・ハイド=ホワイト
映画賞など
アカデミー賞
- アカデミー撮影賞 (白黒部門)
英国アカデミー賞
- 作品賞(国内部門)
カンヌ国際映画祭
- グランプリ