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グランド・ブダペスト・ホテル(2014年)の考察と感想とあらすじは?

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絵本に登場しそうな、ミニチュア模型のように可愛らしいグランド・ブダペスト・ホテルを舞台にした映画です。

建築、風景、セット、色彩、構図・・・あらゆる要素が、物語られた世界を視覚化する方向に振られているのが特徴的です。

背景や建物のライン、雪山、電車などのミニチュア的演出、左右対称性の強調、過度な色使いなどは、観る者に、これは実際の風景ではなく、描かれた絵である、と感じさせます。

こうした演出は、非現実性を強調し、むしろテーマ性を強める手法として機能しています。

また、劇中に頻繁に登場する文字や記号の演出です。

建物の看板、路面電車の文字、拘置所のCHECK POINT 19、ホテル名、新聞の見出し、メニュー表、名刺など、あらゆる物体に何らかの文字が付されています。

絵本や漫画に近い手法を用い、記号性を強めることで、絵と文字が融合した視覚体験をもたらしています。

徹底した文字性の演出は、物語の作られたもの感を強く印象づけ、空間や登場人物を語られる存在として観る者に提示する役割を果たしています。

映画の雰囲気は、時代が進むにつれて画面のトーンが抑制されていきます。1930年代の頃が最も鮮やかに描かれているのです。

戦争後・現代に近づくにつれて画面の彩度が落ち、モノクロームやセピア調の揺らぎも用いられています。

そして、映画は、寓話的で一見ユーモラスですが、根底には、かつてあった美しい秩序と文化が歴史の波に呑まれて消えていくという追悼の念が流れています。

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感想/コメント

モデルとなる国

第一次・第二次大戦期のヨーロッパを想起させる1930年代を舞台に、架空の東欧の国「ズブロフカ共和国」で起きる激動の時代の終わりと、旧世界の崩壊を描いています。

ホテルのモデルとなったのは、チェコの温泉地カルロヴィ・ヴァリにある「グランド・ホテル・パップ」とされます。

チェコのホテルがモデルですが、ホテルの名前にはハンガリーのブダペストの名前が付いています。

「ズブロフカ共和国」はハンガリーやチェコあたりを意識していることから、オーストリア=ハンガリー帝国を意識しているように思います。

映画で出てくるおしゃれで可愛らしいお菓子を作るメンドルは、オーストリアのデメルを思い起こしました。

デメルはザッハトルテで知られるお店です。

旧世界のエレガンスと文明の崩壊

グスタヴ・Hの振る舞いやホテルの格式高いサービスは、戦間期ヨーロッパの古き良き時代の象徴として描かれています。

エチケット、詩、ワイン、社交、身なり、教養、そして階級意識さえもが、彼の人格に凝縮されています。

しかし、観客はこの文明がすでに失われてしまったものであることを、物語の冒頭から知っています。

なぜなら、現在のホテルは荒廃し、かつての華やかさは見る影もないからです。

つまり、映画全体が喪われたものを振り返る構成になっているのです。

映画では、歴史そのものというより、歴史の記憶や過去へのまなざしを描いた作品になっています。

それは、ナチを思わせる武装組織「ZZ」や、東欧の共産化を思わせる政治体制の変化を描いている点にも表れています。

歴史が個人にもたらす断絶と傷

歴史は個人の人生を決定づける力として描かれます。

ゼロによって語られるグスタヴの思い出は、ゼロにとって単なる過去の記録ではなく、歴史によって奪われた人生への追悼と再生の営みです。

映画「グランド・ブダペスト・ホテル」は、歴史的事件のスペクタクルではなく、個人の視点から再構築された歴史の記憶を描いた作品です。

美の記憶装置としてのホテル

ホテルそのものは、過去の記憶を封じ込める装置として機能しています。

美しく設計され、秩序だったサービスの中で、人々の記憶や人間関係が保存されていた場所でしたが、歴史という力の前に風化し、廃墟と化していきます。

それでもゼロはホテルを手放しませんでした。

彼がホテルを維持し続けることは、記憶と歴史を守る行為そのものです。

現在の廃れたホテルを見て、昔はここが世界の中心だったと語るゼロの言葉は、どこか記録に対する現代的な批評意識を感じさせます。

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映画情報(題名・監督・俳優など)

監督 / ウェス・アンダーソン
製作 / ウェス・アンダーソン、スコット・ルーディン、スティーヴン・レイルズ、ジェレミー・ドーソン
製作総指揮 / モリー・クーパー、カール・ウォーケン、クリストフ・フィッサー、ヘニング・モルフェンター
原案 / ウェス・アンダーソン、ヒューゴ・ギネス
脚本 / ウェス・アンダーソン
撮影 / ロバート・イェーマン
プロダクションデザイン / アダム・ストックハウゼン
衣装デザイン / ミレーナ・カノネロ
編集 / バーニー・ピリング
音楽 / アレクサンドル・デスプラ
音楽監修 / ランドール・ポスター

出演
レイフ・ファインズ / ムッシュ・グスタヴ・H
F・マーレイ・エイブラハム / ミスター・ゼロ・ムスタファ
エドワード・ノートン / ヘンケルス
マチュー・アマルリック / セルジュ・X
シアーシャ・ローナン / アガサ
エイドリアン・ブロディ / ドミトリー
ウィレム・デフォー / ジョプリング
レア・セドゥ / クロチルド
ジェフ・ゴールドブラム / 代理人コヴァックス
ジェイソン・シュワルツマン / ムッシュ・ジャン
ジュード・ロウ / 若き日の作家
ティルダ・スウィントン / マダムD
ハーヴェイ・カイテル / ルートヴィヒ
トム・ウィルキンソン / 作家
ビル・マーレイ / ムッシュ・アイヴァン
オーウェン・ウィルソン / ムッシュ・チャック
トニー・レヴォロリ / 若き日のゼロ

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