ホームドラマの名作です。親子愛の中でも、父子に焦点が当てられています。当初の父と息子のギクシャクした関係が、次第に変わっていく様子がとても鮮やかで、ハートウォーミングな気持ちになる映画です。
幼い子供を一人で育てることと、仕事の両立がいかに難しいかも表現され、現代に通じる内容になっています。また、当時アメリカで社会問題となっていた離婚・親権をあつかった映画として、高い評価を得ました。
仕事に集中したいのにビリーの世話をしなければならないテッドのイライラ、母親が突如いなくなって、頼れるのは父のテッドだけのビリーが抱えるさみしさ。
時間が経過するについて、テッドは仕事の比重が落ち、ビリーに歩み寄るようになります。ビリーもテッドの負担を気遣い、わがままなことはあまり言わなくなります。
二人の心が通った時期に下される裁判の判決。テッドはボー然としつつも、ビリーの前では努めて普通にふるまい、ビリーに心配をかけないように話します。ですが、ビリーはテッドと別れることが寂しくて悲しくて溜まりません。泣きじゃくるビリーと、とてもさみしそうな目をしながらビリーを諭すテッド。
この切ないシーンの為にこの映画があるくらい名シーンです。
原作はエイヴリー・コーマンの小説。ロバート・ベントンが監督と脚本を担当。
原題は「Kramer vs. Kramer」。同じ姓の人が争っている裁判で、離婚裁判のことを表しています。
あらすじ/ストーリー
妻の家出
ニューヨークのマンハッタン。
仕事熱心の会社員テッド・クレイマーは、家事と育児を妻のジョアンナ・クレイマーにすべて押しつけ、仕事に没頭していた。副社長に呼ばれたテッドは、大きな仕事を全面的に任せてもらえることになった。
素晴らしい報告をしようと家に帰ると、ジョアンナが家を出ていくという。テッドは5歳のビリーをどうするんだと言うが、ジョアンナは泣きながらビリーを置いていう。ジョアンナは何か自分が打ち込める仕事をしたかったのだ。そのためには家を出るしかなかった。テッドは、夫が順調にキャリアを重ね、収入も増え、家族の生活にまったく不自由がないのに、何が不満なのかと言ったが、ジョアンナは聞く耳を持たなかった。
すぐに戻ってくると思っていたテッドは腹を立てながらも、ビリーの朝食の用意をして、学校へ送った。だが、慣れていないテッドは、朝食のフレンチトーストも満足に作ることもできず、学校へ送るときもビリーの話を聞かずに気もそぞろだった。高をくくっていたが、会社から自宅に電話をかけても誰も出ないことから初めてことの重大さに気がついた。テッドの生活はその日から一変した。
父と息子の生活
テッドと息子ビリーは互いに戸惑いながら二人きりの生活が始まった。
妻が家を出てからは食事もまともに準備できず、ビリーとの接し方も分からず、親子関係はよくなかった。テッドはビリーの朝食を作り、ビリーを学校まで送った後、自らは急いでタクシーで会社へ向かう。順調に進んでいた会社の仕事も家まで持ち帰るようになり、やがては仕事に影響するようになった。
まだ幼いビリーはテッドにかまってもらいたくて仕方がない。突然母親が出て行った寂しさに我慢しながらも、ビリーも仕事と育児に気が散っている父親との生活にストレスを感じていた。
ある夜。ビリーは自分がいい子ではないからママが出て行ったのではないかとテッドに聞いた。テッドはビリーがずっと自分自身を責めていたことを知り、ビリーに離婚はビリーのせいではないことと、ビリーのことをとても愛していることを伝えた。お互いの気持ちを確認しあい、時間とともに二人の絆は深まっていった。
1年半
ジョアンナが家を出て行ってから1年半後。家事と育児に精を出すテッド。ビリーとの関係も以前よりも親密になっていた。
ある日、すこし目を離した隙にビリーがジャングルジムから転落し大怪我を負ってしまう。そのうえ息子に気を取られ仕事に身が入らないテッドは、会社から解雇されてしまう。大きなプロジェクトが他社に取られそうになっていることが分かったのだった。
ジョアンナから電話がかかってきた。息子の養育権はテッドに渡すと認めたにも係らず、離婚時の取り決めを反故にして、母性を盾に養育権の奪還を裁判所に申し立てた。ジョアンナとテッドはビリーの親権を巡って法廷で争うことになった。弁護士に相談するも、失業中のテッドが養育権を勝ち取る見込みはほとんどない。
裁判
テッドは親権をかけて法廷で争うつもりだった。そのためには無職ではまずかった。年末のクリスマス休暇直前に、なんとか就職口を見つけた。収入はだいぶ落ちることになったが、無職よりはましだった。裁判が始まると、ジョアンナの方が収入が多いことが分かった。
法廷では、仕事ばかりで家庭を顧みなかったというジョアンナの主張に反論できず、テッドは裁判で苦戦を強いられた。そしてとどめはジャングルジムからの転落による怪我だった。
裁判は負けた。
ビリーの養育権はジョアンナの手に渡ることとなった。ビリーとの生活が生き甲斐で、ビリーのことを心から可愛がっているテッドは意気消沈した。ビリーもまたテッドと一緒に暮らせないことを悲しみ、泣いた。
ビリーがジョアンナの所に行く朝、テッドはうまくつくれなかったフレンチトーストを手際よく作り、ビリーと二人で最後の朝食をとった。
ジョアンナがやってきてテッドと二人きりで話したいとマンションのロビーに呼んだ。そして、ジョアンナはビリーの家はここだからビリーを連れていかないと泣きながら告げた。ジョアンナはテッドにビリーと二人きりで話をしたいと言って、ビリーに会いに行った。テッドは優しく微笑んでジョアンナを見つめた。
映画情報(題名・監督・俳優など)
クレイマー、クレイマー(1979)
監督 / ロバート・ベントン
製作 / スタンリー・R・ジャッフェ
原作 / アヴェリー・コーマン
脚本 / ロバート・ベントン
撮影 / ネストール・アルメンドロス
プロダクションデザイン / ポール・シルバート
編集 / ジェラルド・B・グリーンバーグ
音楽 / ヘンリー・パーセル
出演
テッド・クレイマー / ダスティン・ホフマン
ジョアンナ・クレイマー / メリル・ストリープ
ビリー・クレイマー / ジャスティン・ヘンリー
ジム・オコーナー / ジョージ・コー
マーガレット・フェルプス / ジェーン・アレクサンダー
フェントン / ハワード・ダフ
フィリス / ジョベス・ウィリアムズ
映画賞など
ビリー役のジャスティン・ヘンリーは8歳でアカデミー助演男優賞にノミネートされ、史上最年少記録を樹立した。
第52回アカデミー賞
- 作品賞
- 監督賞
- 脚色賞
- 主演男優賞
- 助演女優賞
第37回ゴールデングローブ賞
- ドラマ部門作品賞
- 脚本賞
- ドラマ部門男優賞
- 助演女優賞
第14回全米映画批評家協会賞
- 監督賞
- 主演男優賞
- 助演女優賞
第45回ニューヨーク映画批評家協会賞
- 作品賞
- 男優賞
- 助演女優賞
第5回ロサンゼルス映画批評家協会賞
- 作品賞
- 監督賞
- 脚本賞
- 男優賞
- 助演女優賞
第23回ブルーリボン賞
- 外国作品賞