2025年にNetflixで配信された映画「新幹線大爆破」は、Netflixのオリジナル映画ですが、1975年に公開された「新幹線大爆破」のリブート版です。
現代社会に即したテーマと演出を加えつつ、原作へのリスペクトを随所に感じさせる作品となっています。
リメイクというより「続編」と表現してもよいほど、オリジナルとのつながりが深く、鑑賞者のノスタルジーとスリルの両方を刺激する見応えのある映画になっています。
まず本作は、その冒頭から「109号事案」というワードを登場させることで、オリジナルを観た世代の心を強く引き込んでいます。
これは1975年版で登場した「ひかり109号爆破未遂事件」のことです。
フィクションの中にしっかりとした“歴史”がありました。
前作の出来事を、物語上の事件として公式に扱っている点が非常に巧みで、ただのリブートにとどまらず、「世界観の継承」という意味でも深みがあります。
1975年版は大作でした。主人公を高倉健さん、新幹線の運転士を千葉真一さん、運転司令長を宇津井健さんといった名優が揃った贅沢なキャストが話題になります。
犯人も単なる悪人ではなく、それぞれに事情や背景を抱えた3人が描かれました。
- 高倉健さん演じる町工場の元社長・沖田哲男
- 織田あきらさん演じる集団就職で沖縄から来た青年・大城浩
- 山本圭さん演じる過激派崩れの古賀勝
山本圭さん演じる古賀勝の最期は、今回のリブートでも彼の死が事件において鍵となるなど、ストーリーに重要な影を落としています。
新作は単なる設定の使い回しではなく、こうしたディテールを丁寧に掘り下げている点に特徴があります。
感想/コメントやあらすじなど
新幹線
今回の事件の舞台となるのは、東海道新幹線ではなく、東北新幹線「はやぶさ60号」です。
新青森駅から東京駅に向かう実在の列車が舞台であり、映画内でも現実の時刻表や地理に即してストーリーが展開されていく点がリアリティを高めています。
はやぶさ60号は映画公開時点で実際に時刻表に載っています。新青森駅を15時17分出発、東京駅に18時32分到着予定です。
新青森駅から東京駅まで674.9km、平均で約220km/hの速度です。
作中では、犯人から「時速100km以下になれば爆発する」と脅されます。
これは1975年版の「80km」よりも高い速度設定となっており、列車は平均時速120kmで走行しています。
観客としては「ギリギリ105kmでいいのでは」と思ってしまいますが、不測の事態への備えとして若干の余裕を持たせている演出が説得力を与えます。
犯人からは時速100km以下になると爆発すると脅され、映画では時速120kmで走行します。
時間とともに車窓の風景が移りゆきます。
福島に差しかかる頃には夕暮れ、栃木では夜の帳が下りていました。
こうした描写は日本列島を縦断する列車の長旅をリアルに描いており、観客の緊張感をさらに引き立てています。
JR東日本の協力
興味深いのは、1975年当時、国鉄が撮影協力を拒否していたという事実です。
新幹線の安全神話を構築しようとしていた時期であり、爆破をテーマにした映画はイメージダウンの懸念があったためです。
また、新幹線爆破予告はしょっちゅうあったらしく、映画によって模倣犯が出るのも心配していたようです。
模倣犯現れるかもしれないという心配はとてもよく理解できます。本作を見ていて模倣犯が出ないだろうかと思いましたので。
しかし今作ではJR東日本が撮影に協力しています。
ただし、実際の新幹線で減速走行を再現するわけにはいかなかったようです。
劇中の映像は明らかに120km以上で走っているように見えましたからね。
冷静な主人公達
本作の主人公である車掌・高市を演じた草𦿶剛さんは、終始冷静沈着な姿勢を貫き、観客に安心感と信頼を与える存在でした。
彼の落ち着いた態度によって、物語の緊張感が過剰にならず、観る側もストーリーに集中することができました。
統括司令長・笠置を演じた斎藤工さんもまた、非常にクールで理性的な判断を下し、非常時における“理性”の象徴として描かれました。
これら二人の存在が作品全体を引き締めています。
一方、精神的に最も追い詰められるのが、運転士・松本です。
演じたのんさんは、自分の運転判断一つで乗客全員の生死を左右するというプレッシャーを繊細に演じきりました。
無言の時間や表情、視線の動きで内面を表現する演技が印象的でした。
また、本作には典型的な“嫌味な官僚”役として総理補佐官・佐々木(田村健太郎さん)が登場しました。
最初は高圧的で現場軽視の態度を取りますが、最終的には一丸となって事件解決に協力する姿勢に変化します。
こうした展開はある意味で“様式美”ですが、物語を通じて人が変わっていく姿を描くという意味では必要なキャラクターです。
時代を映す登場人物達
興味深かったのは、登場人物の中に現代社会を象徴するような存在が複数描かれていた点です。
- ヘリの墜落事故を起こした会社の元社長・後藤。
- ママ活不倫疑惑の衆議院議員・加賀見。
- YouTuberの等々力。
後藤は2022年に知床遊覧船沈没事故を起こした桂田精一社長を連想させました。
女性議員の不倫といえば、山尾志桜里元議員を思いましたが、他にも思い浮かぶ人がいるかもしれません。
そして、YouTuberの等々力を登場させたのは時代を意識したなぁと思いました。
迷惑系YouTuber風の動画配信者と、等々力との対比も興味深く、SNSや動画文化の影響力と功罪を示唆していたように思います。
映画はしばしば社会の鏡となりますが、本作もまた、2025年前後の日本社会を反映していました。
何十年か後に再リブート版を制作することがあれば、時代の変化を感じ取れるかもしれません。
ただ、時代を描くのであれば、アフター・コロナの世界を何らの形で表現してほしかったと思います。
なぜか思い起こされた映画
全然関係ないですし、1ミリも、カスってすらいないのですが、見ている途中からどうしても頭にチラついた映画がありました。
「シン・ゴジラ」です。
無人列車がゴジラに突撃していくあの終盤のシーンと、本作の緊迫した列車シーンに何らかの共通性を感じてしまったのかもしれません。
何なら音楽も一緒に頭の中で鳴っていました。
全く関係ないのに不思議なものです。どこかのシーンが似ていて思い出してしまったのかもしれません。
映画情報(題名・監督・俳優など)

監督 / 樋口真嗣
エグゼクティブプロデューサー / 佐藤善宏
プロデューサー / 石塚紘太
脚本 / 中川和博、大庭功睦
オリジナル脚本 / 小野竜之助、佐藤純彌
撮影 / 一坪悠介、鈴木啓造
音楽 / 岩崎太整
出演
草なぎ剛 / 高市和也
細田佳央太 / 藤井慶次
のん / 松本千花
要潤 / 等々力満
尾野真千子 / 加賀美裕子
豊嶋花 / 小野寺柚月
黒田大輔 / 林広大
松尾諭 / 後藤正義
大後寿々花 / 市川さくら
尾上松也 / 福岡祐希
六平直政 / 篠原圭造
ピエール瀧 / 古賀勝利
坂東彌十郎 / 諏訪茂・内閣官房長官
斎藤工 / 笠置雄一
大原優乃 / 二宮
大場泰正 / 吉村慎之介
岩谷健司 / 川越吉晴・警部補
田村健太郎 / 佐々木健太郎・総理補佐官
今野浩喜 / 野坂
西野恵未 / 山本由紀乃
前田愛 / 医師
中島瑠菜 / 綿貫葵
屋敷紘子 / 篠原和子
村本明久 / 千葉亮太
森優作 / 永野
木原勝利 / 五木
青柳尊哉 / 向井
さかたりさ / 奈良正美
佐藤貢三 / 石川
谷口翔太 / 茂木剛・刑事
國本鍾建 / 刑事
月川修 / 刑事
山澤亮太 / 刑事
岡部ひろき / 金本
金子鈴幸 / 島
増田怜雄 / 武井
中山ひなの / 青山穂花
佐月絵美 / 紗奈
森達也 / 小野寺勉
田中要次 / 新庄一
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