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教皇選挙(2024年)の考察と感想とあらすじは?

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原題は「Conclave(コンクラーヴェ)」。カトリック教会の教皇が亡くなることによって、新教皇を選出する「教皇選挙」「教皇選出会議」を意味します。

キリスト教の中でも最大の教派であるカトリックは、信者が全世界で13億人以上いると言われます。

教皇はカトリック信者の最高指導者になります。

「Conclave(コンクラーヴェ)」の語源はラテン語の “con clave”(鍵をかけて)です。「閉ざされた場所での会議」という意味になります。

言葉の由来通り、コンクラーヴェでは、外部との接触が一切できないようにされて新教皇選出の選挙が行われます。

選挙に参加できるのは枢機卿のみ。枢機卿はバチカンに集まって、完全非公開の中で投票が行われます。

非公開ゆえに、中でどのようなことが行われているのか、どのような駆け引きがあるのか・・・そうしたところを描いた映画です。

奇しくも、映画が公開されている2025年4月21日にフランシスコ教皇が亡くなりました。

現実でもコンクラーヴェが行われたことから、映画に更なる注目が集まりました。

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感想/コメント

映画は、首席枢機卿のトマス・ローレンス枢機卿を主人公に描かれます。

映画の軸となるのは、有力候補の達の中で、誰が次の教皇になるかです。

有力候補は次の4人です。

  • アルド・ベリーニ枢機卿:アメリカ出身で進歩派
  • ジョシュア・アデイエミ枢機卿:ナイジェリア出身で社会保守派
  • ジョー・トランブレ枢機卿:カナダの穏健保守派
  • ゴッフレード・テデスコ枢機卿:イタリア出身で伝統主義を掲げる保守強硬派

信仰と野望

トマス・ローレンス枢機卿は、信仰の揺らぎを感じたため、亡くなった教皇に枢機卿の辞任を申し出ましたが、受け入れられませんでした。

首席枢機卿の立場のまま、コンクラーヴェを運営することになり、教皇選挙を中立に、かつ清廉に進めようとします。

一方で、教皇の有力候補は、それぞれの野心のために行動します。

神に仕える枢機卿の、俗世にまみれた姿を描き出しているのが、この映画の面白い点の一つです。

進歩と保守

映画の当初に語られるのが、カトリック教会内での進歩派と保守派の対立です。

主人公のトマス・ローレンス枢機卿は進歩派の立場です。

軸となる候補者は2人。進歩派でアメリカ出身のアルド・ベリーニ枢機卿と、保守・伝統派でイタリア出身のゴッフレード・テデスコ枢機卿です。

アルド・ベリーニ枢機卿は、比較的リベラルな考え方を持っており、女性の役割、同性愛問題、現代社会への適応などの教会改革に理解を示します。

ゴッフレード・テデスコ枢機卿の考えが端的に現れたのが、イスラム原理主義者による爆発テロが起きた後に、枢機卿たちが集まった場での発言です。

テデスコ枢機卿は、爆発テロを宗教戦争だと言い、キリスト教徒の住む場にイスラム教徒のためのモスクの建設を許しているにもかかわらず、イスラム教徒はキリスト教会の建設を認めない、非寛容性を非難します。

そして、かつてカトリック教会の共通言語はラテン語だったのが、そうではなくなっていることに対する不満を述べます。ラテン語を共通言語とすることで、一般信者との差別化、特権意識化を復活させようということなのでしょう。

保守強硬派的で、排外主義的ですが、有力候補であるということは、一定の支持が得られている考えの持ち主ということです。

差す光

コンクラーヴェが行われるのはシスティーナ礼拝堂です。

システィーナ礼拝堂には、ミケランジェロ、ボッティチェッリ、ペルジーノ、ピントゥリッキオらの、ルネサンスを代表する芸術家による装飾絵画作品であふれています。

ミケランジェロの天井画と「最後の審判」が有名です。

そのシスティーナ礼拝堂の中に、爆発とともに天井の窓が砕け、光が差し込みます。

トマス・ローレンス枢機卿が投票する瞬間の出来事であり、印象的な場面になっています。

そして、このシーンを境に、状況が大幅に変わっていきます。まさに神の光が差し込んだ瞬間でした。

秘密とスキャンダル

カナダ出身のジョー・トランブレ枢機卿は、宗教的、政治的な立場にはそれほど興味がなく、むしろ俗世にまみれた人物として描かれます。

他の有力候補にも隠された過去があり、映画の中盤以降で有力候補が脱落していきます。

カトリック教会の広がり

カトリック信徒が多いのはヨーロッパとアメリカ大陸です。

2000年度の統計で、南北アメリカに5億2000万人、ヨーロッパに2億8000万人、アフリカに1億3000万人、アジアに1億700万人、オセアニアに800万人です。

ジョシュア・アデイエミ枢機卿は信徒のグローバル化と多様性、第三世界の声を体現します。

ジョシュア・アデイエミ枢機卿はナイジェリア出身で、アフリカ諸国のカトリック教徒の急増を背景に、南半球の教会の重要性を示しています。

将来、人口が増え続けるのは、アフリカ大陸だけということが分かっておりますので、そうした社会背景もあります。

もしかしたら、アフリカが将来最大のカトリック信徒数を抱えるかもしれません。

よそ者

ヴィンセント・ベニテス枢機卿は、首席枢機卿のトマス・ローレンス枢機卿ですら存在を知らなかった人物として、文字通り突如登場します。

前教皇に秘密任命されたのは、ヴィンセント・ベニテス枢機卿が担当している教区がアフガニスタンのカヴールだからです。そして、それまで、多くの紛争地域や教会の勢力が弱い地域で活動してきた人物だからでした。

ヴィンセント・ベニテス枢機卿は、枢機卿という組織体の埒外の人物です。それゆえに、完全な第三者として、唯一の客観的な立場で発言ができます。

そして、ベニテス枢機卿は完全な第三者であるがゆえに、トマス・ローレンス枢機卿よりも純粋にコンクラーヴェに臨むことができます。

おそらく登場人物の中で最も信仰の揺らぎが少なく、信仰的に純粋な人物だと思います。

メキシコ出身ということで、ジョシュア・アデイエミ枢機卿が体現していた、信徒のグローバル化と多様性も担っています。

シスターの視点

シスター・アグネスは、枢機卿たちの権力・策略の外側にいる女性修道者として、「見ている者」「記憶する者」という役割です。

映画の最後の場面で、3人のシスターが笑いながら歩く場面が描かれます。いろいろな解釈ができる場面です。

そもそもカトリック教会が女性を枢機卿に任命しない理由は、教義的に女性が司祭・司教になれないとされているためです。

イエス・キリストが使徒として選んだのはすべて男性であったため、教会はこの「使徒伝統(apostolic tradition)」に忠実であるべきだとします。

そのため、女性には叙階の権利がなく、司祭・司教にはなれません。

枢機卿は司教の一形態ですので、女性が叙階されない限り、枢機卿にはなれないということになります。

しかし、当然こうした旧態依然とした体制への批判はあります。

思い出される小説

映画を観て思い出した小説があります。ドナ・ウールフォーク・クロスの「女教皇ヨハンナ」です。

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映画情報(題名・監督・俳優など)

監督 / エドワード・ベルガー
原作 / ロバート・ハリス
脚本 / ピーター・ストローハン
撮影 / ステファーヌ・フォンテーヌ
プロダクションデザイン / スージー・デイヴィーズ
衣装デザイン / リジー・クリストル
編集 / ニック・エマーソン
音楽 / フォルカー・バーテルマン
キャスティングディレクター / ニナ・ゴールド、マーティン・ウェア

出演
トマス・ローレンス枢機卿 / レイフ・ファインズ
アルド・ベリーニ枢機卿 / スタンリー・トゥッチ
ジョセフ・トランブレ枢機卿 / ジョン・リスゴー
ゴッフレード・テデスコ枢機卿 / セルジオ・カステリット
ジョシュア・アデイエミ枢機卿 / ルシアン・ムサマティ
ヴィンセント・ベニテス枢機卿 / カルロス・ディエス
サバディン枢機卿 / メラーブ・ニニッゼ
モンシニョール・レイモンド・“レイ”・オマリー / ブライアン・F・オバーン
シスター・アグネス / イザベラ・ロッセリーニ
ヤヌシュ・ウォズニアック大司教 / ジャセック・コーマン

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