感想/コメント
第二次大戦中、脱出絶対不可能とうたわれたドイツの捕虜収容所から、250名の連合軍捕虜が大量脱走したという実話の映画化です。
原作は当時英空軍スピットファイヤー・パイロットで、実際にこの大仕事に参加していたポール・ブリックヒル。
1950年に出版された著書”ザ・グレート・エスケープ”は超ベスト・セラーになりました。
第二次大戦中をテーマにした映画ですが、戦闘場面はほとんどありません。
巧妙な脱走のための準備、そして兵士達の人間模様が大きな柱です。
そして、娯楽映画であるにもかかわらず、生き延びること、収容所から脱出することにすべての情熱をささげ、決して挫けない、諦めないという姿勢が映画から伝わってきます。
拳を握りしめ、手に汗をかきながら、見入ってしまう作品です。
あっという間に時間の過ぎる映画でした。
収容所にいる捕虜たちのその執念たるや、すさまじいものがあります。何が彼らをそうさせるのでしょうか？
独房で黙々とキャッチボールを続ける独房王・ヒルツ（マックィーン）。
トンネル堀りの名人だが本当は閉所恐怖症というトンネルキング・ダニー（チャールズ・ブロンソン）。
他にも個性溢れる人物たちを、豪華キャストが演じています。
そして、苦労をした準備も完了し、綿密な作戦によって脱走を開始します。
実際に行われたとう収容所の建物の下からフェンスの外までトンネルを掘り進む作業。現在の映画では決して行われないような作業を行ったからこそ、リアリティのある場面が出来上がっています。
最後に、スティーブ・マックイーン扮するヒルツがオートバイで脱走する姿は、映画屈指の名シーンとして知られます。
メインテーマのエルマー・バーンスタイン作曲の『大脱走マーチ』 (The Great Escape March)。
監督は「荒野の七人」（1960）のジョン・スタージェス。
内田樹氏は「ハリウッド映画で学べる現代思想-映画の構造分析-」で本作の構造分析を行いました。
内田氏は「あるべきはずものがない」ことで覚える違和感を「欠性的な抵抗感」と呼びましたが、欠性的徴候の例として本作を取り上げたのです。
本作では、「エイリアン」同様に、重層的な構造が存在しており、ストーリーラインとは別に反- 物語的な映画記号が描き込まれていると捉えました。（それゆえに本作は面白いのです。）
そして、フロイトの「押し戻す番人」と「変装して脱出を企てる心的エネルギー」比喩が、「大脱走」の下絵を描いていると考え、「大脱走」は抑圧とその効果についての物語としました。
捕虜たちは「番人」を騙すために、自分達と似つかぬものに変装する必要があり、それが「トンネル」であると考えました。フロイトによると夢においてトンネルは産道の象徴です。
そして「大脱走」は抑圧とその効果の物語であり、そこには「父の審級」として収容所長が登場しますが、捕虜たちは父の審級の命令を拒否します。
それゆえ「大脱走」は「アンチ・エディプス」、つまり「父殺し」のドラマに他ならないというのです。
内田氏は「ハリウッド映画で学べる現代思想-映画の構造分析-」で、さらなる分析しておりますので、ご興味があれば是非ご一読ください。
あらすじ/ストーリー/ネタバレ
新たに作られたドイツの北部第3捕虜収容所。
ここに、札つきの脱走常習者・連合軍空軍将校たちが運び込まれた。
しかし早くも”心臓男”と異名をとったヒルツ(スティーブ・マックィーン)は鉄条網を調べ始め、ヘンドレー(ジェームズ・ガーナー)はベンチをトラックから盗み出す始末。
まもなく、ビッグXと呼ばれる空軍中隊長シリル(リチャード・アッテンボー)が入ると、大規模な脱走計画が立てられた。
まず、森へ抜ける数百フィートのトンネルが同時に掘り始められた。
それはトム・ディックハリーと名付けられた。
全員250名が逃げ出すという企みだ。
アメリカ独立記念日トムが発覚してつぶされた。
が、ほかの2本は掘り続けられた。
しかし、あいにくなことに掘り出し口が看取小屋の近くだったため、脱走計画は水泡に帰し、逃げのびたのはクニー(チャールズ・ブロンソン)と、彼の相手ウィリイだけであった。
激怒した収容所ルーゲル大佐が、脱走者50名を射殺したと威嚇した。
やがて、”勇ましい脱走者”の生存者を乗せたトラックが到着したとき、ゲシュタポの車が収容所の入口に止まり、ルーゲルは重大過失責任で逮捕された。
かくてドイツ軍撹乱という彼らの大使命は果たされたが、幾多の尊い生命が失われていった。
再び収容所に静けさが訪れたが、ヒルツやヘンドレイは相変わらず逃亡計画を練りあちらこちらでその調査が始まっていた。
映画情報（題名・監督・俳優など）
大脱走
(1963)
監督：ジョン・スタージェス
原作：ポール・ブリックヒル
脚本：ジェームズ・クラヴェル/Ｗ・Ｒ・バーネット
音楽：エルマー・バーンスタイン
出演：
独房王・ヒルツ/スティーブ・マックイーン
調達屋・ヘンドリー/ジェームズ・ガーナー
ビッグＸ・バートレット/リチャード・アッテンボロー
製造屋・セジウィック/ジェームズ・コバーン
トンネルキング・ダニー/チャールズ・ブロンソン
偽造屋・コリン/ドナルド・プレザンス
砂処理屋・アシュレー/デイヴィッド・マッカラム
ルーガー所長/ハンネス・メッセマー
先任将校・ラムゼイ/ジェームズ・ドナルド
マクドナルド中尉/ゴードン・ジャクソン
