(映画)すずめの戸締まり(2022年)の感想とあらすじは?

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新海誠監督による、「君の名は。」(2016年)、「天気の子」(2019年)に続く映画です。

「君の名は。」「天気の子」同様に災害を題材にしています。

「君の名は。」では彗星落下、「天気の子」では異常気象、そして本作「すずめの戸締まり」は地震です。

本作は、東日本大震災の鎮魂の物語になっています。

「君の名は。」は東日本大震災からインスパイアされたものの、表現は隠喩的でした。

今回は直喩的な表現になっています。

その理由としては、時間の経過による、共通体験の希薄化があったようです。

東日本大震災から10年以上が経過して、どんどん震災が我々の共通体験ではなくなってきていると思うんです。僕の娘は震災の前年に生まれていて、彼女にとってあの震災はもう“教科書の中の出来事”なんですよね。

 僕たちの映画は、10代の観客も多いです。震災を経験してはいるけれど、そのときはまだ幼かったりして、大きな実感を伴う出来事ではなかったという方も大勢いる。

 それでも、いまならまだ少し手を伸ばせば届くような過去の出来事として、多くの人が想像力を働かせることができるのではないか? むしろ「いまでなければ間に合わない」と思って、今回の映画にこのテーマを込めました。

https://www.famitsu.com/news/202211/17282112.html
映画『すずめの戸締まり』公式サイト
扉の向こうには、すべての時間があった―『君の名は。』『天気の子』の新海誠監督 集大成にして最高傑作『すずめの戸締まり』2023年9月20日(水)Blu-ray&DVD発売!
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感想/コメント

この映画の性質

本作「すずめの戸締まり」は、宮崎県を出発して、愛媛県、神戸市、東京都区内、宮城県と移動していきます。

移動の途中途中で、様々な人々との出会いと交流があり、ロードムービー的な一面があります。

魂の救済

そして、その旅程は主人公・岩戸鈴芽と宗像草太の魂救済の物語にもなっています。

鈴芽は東日本大震災を生き延びたゆえにサバイバーズ・ギルトになっています。

そのため、事あるごとに死ぬことは怖くないと言ってしまいます。

草太は、友人の芹澤朋也から、自分を大切にしない奴だと心配されています。

自分を大切にできないのは、家業の閉じ師という仕事ゆえでしょうか。

鈴芽と草太は似た者同士と言えそうです。

ところで、芹澤朋也の「闇深ぇ」というセリフが良い味を出していて好きです。

僕は“嘘のないメッセージ”を込めたつもりです。どんなことを経験しても、その後も人は生きていくことができる。今、辛いことがあっても、来年の今頃は笑っているかもしれない。苦しみや困難の先には希望がちゃんとあるし、過去の自分に「だから大丈夫だよ」と伝える未来の自分がきっといる。そんなことを伝えたくてこの作品を作りました。

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ヒーローズジャーニー

主要な登場人物は、神の要素をもっておりますので、神話的な物語とも言えます。

英雄の神話的冒険がたどる標準的な道は、通過儀礼が示す定型を作ります。

それは、ジョーセフ・キャンベル氏が「千の顔をもつ英雄」で説く「分離(セパレーション)⇒通過儀礼(イニシエーション)⇒帰還(リターン)」のパターンです。

ジョーセフ・キャンベル「千の顔をもつ英雄」の感想と要約は?
神話学の古典的基本書です。ヒーローズ・ジャーニーとして知られる有名な定型があり、多くの映画人、クリエイターに影響を与えてきました。特に、映画「スター・ウォーズ」シリーズへ大きな影響を与えたことで知られます。

神話性

映画は日本神話の「日向神話」の舞台である宮崎県から始まります。

天孫降臨の舞台であり、天照大御神が隠れたために、世界が暗闇に包まれた岩戸隠れの伝説の舞台「天の岩戸」がある場所でもあります。なお、天の岩戸は、日本各地にあります。

主人公の岩戸鈴芽(いわと・すずめ)の苗字は、この「天の岩戸」からとられ、名の鈴芽は岩戸隠れ伝説のアメノウズメからインスパイアされています。

もう一人の主人公・宗像草太(むなかた・そうた)は「閉じ師」の家系という設定です。

宗像草太の名の由来も、鈴芽が神話にちなんでいるため、宗像大社を思わずにいられませんでした。

ですが、宗像大社の主祭神は女神なので、さすがに違うのでしょう…。

この宗像草太がたびたび唱える祝詞があります。

かけまくもかしこき日不見(ひみず)の神よ
遠(とお)つ御祖(みおや)の産土(うぶずな)よ
久しく拝領つかまつったこの山河
かしこみかしこみ謹んでお返し申す

すずめの戸締まり(2022年)

鈴芽の出立

神話的な旅の第一段階は「冒険への召命」と呼ばれます。

英雄は自らの意志で出立することもできるし、何者かによって連れていかれることもあります。

鈴芽の冒険への召命は、突然でしたので、本人の意志とは言い難いですが、戻る選択をしませんでしたので、自らの意志とも言えます。

日常の世界から、非日常の世界へいざなわれるのは、英雄譚の鉄則です。

ダイジンとサダイジンと要石、そしてミミズ

岩戸鈴芽と宗像草太と並んで重要な登場人物が白い猫「ダイジン」です。

「ダイジン」は漢字ではありません。漢字にすれば、「大臣」であり、「大神(ダイジン)」であり、「大尽」です。

神の化身と言える「ダイジン」は気まぐれです。いくつもの側面を持つのは、八百万の神だからかもしれません。

土地の神である産土(うぶすな)を鎮める役目を追っています。

映画の後半で登場する「サダイジン」も「ダイジン」と同じ役割を担っています。

漢字で書けば「左大臣」となります。

左大臣は太政官の職の一つで、右大臣の上の職になります。

左大臣の上に太政大臣が設けられましたが、時代によっては左大臣が最高職でした。

映画において、「サダイジン」は「ダイジン」よりも上に位置しているようです。それは、体の大きさでも表されていました。

この二匹の猫の正体は「要石(かなめいし)」です。

要石

映画で「要石」はどの時代においても2か所あるものの、その場所は時によって移っていました。

知られる日本の「要石」は千葉県の香取神宮と茨城県の鹿島神宮、三重県の大村神社、宮城県の鹿島神社にあります。

もしかしたら、存在の忘れ去られた「要石」が他にもあるのかもしれません。

猫の神様

古代エジプトには猫の女神であるバステト神がいます。

バステト神は「太陽神・ラーの目」として人々を罰する者として恐れられていました。

しかし、ファラオの守護者となり、人々を病気や悪霊から守護する女神に変わりました。

勝手気ままに見える「ダイジン」「サダイジン」は、厄災の象徴ではなく、守護する者です。

ただし、己の限界はわきまえており、最後の最後は人の手が必要だと言いました。

英雄譚において、イニシエーション(通過儀礼)は必須です。

英雄は次から次へと襲ってくる試練を乗り越えていかなければなりません。

ミミズ

地震はナマズ、というイメージがありますが、ナマズのイメージは江戸時代の後半の安政の大地震(1855年)の瓦版からだそうです。

それまでは、龍で表現されていたそうです。

その龍が日本を取り囲んでおり、龍が動くことで地震が起きると考えられていたそうです。

この映画に登場するミミズはナマズよりも龍に近いかもしれません。

「ミミズ」は古くから語り継がれてきた火と水の神、「日不見(ひみず)の神」の呼び方が変化したものだとか。 さらに「日不見」は日が見えないと書くので、土の中で暮らすミミズのこと、つまり大地そのものを表しています。草太の唱える祝詞には、「ずっと人間が借りてきた山や川を、住む人がいなくなったのでお返しします」という意味が込められています。

https://ciatr.jp/topics/322034

二匹の蝶

映画で目立たないように登場するのが二頭の蝶です。蝶は仏教で魂を運ぶ存在です。

蝶はたびたび登場します。

最初に登場するのは、冒頭のシーンのあと、鈴芽が目覚めた時です。この時の蝶は「胡蝶の夢」の蝶でしょう。

荘子の胡蝶の夢において、蝶は現実と夢の境目をあやふやにする象徴でした。

この映画でも現実と神域との境目をあやふやにする装置になっているようです。

次に現れるのは、愛媛から神戸へ向かう途中のバス停で待っている時です。蝶は体を休めています。

東京で地震が起こる時に飛び立った蝶は、まるで命の旅立ちの様です。

そして、東北への道中で鈴芽と芹澤が風景を眺めている時にも蝶の群が海の方へ飛び立ちました。

常世で鈴芽が幼い頃の鈴芽と出会った時にも蝶が現れます。

強く描かれている訳ではないので、あまり気に止まりませんが、蝶は印象的な使われ方をしています。

東京の後ろ戸

東京の後ろ戸は皇居の地下の設定です。

平将門の首を祀る将門塚に後ろ戸があるのかと思いましたが、そうではなかったようです。

鈴芽は、竹橋近くの堀に落ちました。その後、後ろ戸を閉じて、首都高速都心環状線の千鳥ヶ淵派出所の裏当たりから千鳥ヶ淵に出てきました。

皇居の乾門の地下辺りになりそうです。

扉という装置

本作において、扉は「常世」と「現世(うつしよ)」をつなぐ装置です。

役割としては、日本神話の黄泉比良坂(よもつひらさか)に似ています。

黄泉比良坂、生者の現世と死者の黄泉との境目にあります。坂というよりは、境界域です。その境界は千引の岩で遮られています。

千引の岩が境界を分ける装置であるように、扉が境界を分ける装置になっています。

いってきますとおかえりなさい

宮城に行って鈴芽は常世へ足を踏み入れ、草太を救います。

その後、ミミズを鎮めるため草太が祝詞を唱えるます。

この時に、3.11の朝の様子が映し出されました。

それはごく普通の日常の一コマでした。

そこでは「おはよう」「ごちそうさま」「いってきます」「いってらっしゃい」と朝の日常と挨拶だけが描かれました。

ですが、帰宅の「お帰りなさい」は描かれません。挨拶をした人々は帰宅できなかったからです。

このシーンは身につまされました。

鈴芽と草太が常世から離れ、現世に戻ってきた際、鈴芽は「いってきます」と扉を閉めました。

それまで、扉を閉めるときは「お返し申す」「お返しします」というセリフでした。

常世から戻ってくることで「いってきます」になったということは、常世からの別離を意味しています。

そして、映画の最後は草太を出迎えて「おかえり」で終え、英雄の神話的冒険は終焉を迎え、円環が完成しました。

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映画情報(題名・監督・俳優など)

監督/新海誠
製作/川口典孝
企画・プロデュース/川村元気
制作統括/徳永智広
エグゼクティブプロデューサー/古澤佳寛
プロデューサー/岡村和佳菜,伊藤絹恵
原作/新海誠
脚本/新海誠
キャラクターデザイン/田中将賀
作画監督/土屋堅一
美術監督/丹治匠
音響監督/山田陽
音響効果/伊藤瑞樹
音楽/RADWIMPS,陣内一真
音楽プロデューサー/成川沙世子
制作プロデュース/STORY inc.

声の出演:
岩戸鈴芽/原菜乃華
宗像草太/松村北斗
岩戸環/深津絵里
岡部稔/染谷将太
二ノ宮ルミ/伊藤沙莉
海部千果/花瀬琴音
岩戸椿芽/花澤香菜
芹澤朋也/神木隆之介
宗像羊朗/松本白鸚

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