宇江佐真理の「八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし 卵のふわふわ」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

料理本だと思っていた。

違った。離婚の危機を迎えている若夫婦を巡る連作短編集であった。

登場人物の中で異彩を放っているのが、舅の椙田忠右衛門。伝説の同心。

湯島の学問所で行われる学問吟味をあっさりと合格。だが、剣術はからっきしだめ。朱引きの外まで下手人を追い、行方知れずとなる。かと思えば、家族が弔いを済ませたあとに、ひょっこりと下手人を連れて戻ってきた。

他にも逸話に枚挙にいとまはない。

げじげじの眉に団子鼻。いつも口を尖らせるようにしゃべる。たっぷりと肉の付いた頬は食通を思わせる。食通はその通りで、食い意地は張っている。

とぼけたというか、少年ぽいというか、つかみ所のない忠右衛門が主人公なのかと思っていたが、その嫁ののぶが主人公だった。

読んでいる内に思ったのは、この忠右衛門を主人公にしてしまった方がよかったのではないかということである。同時に、すこし欲張った内容になったのかなとも思った。

椙田忠右衛門は食通で、頭脳は天才的。その一方で剣術はからっきしだめ。これだけでもキャラクターとして充分申し分ないように思われる。

これを脇役にして、息子夫婦の離婚の危機を軸に、食べ物をからませるのだから、欲張りすぎといってもいいだろう。

通常なら、どれも中途半端になり、読むに耐えないものになっていたかもしれない。実際どっちつかずの話の展開になっており、破綻すれすれの感じがある。だが、それなりに面白く読めてしまう。さすがに、そこは宇江佐真理の筆の力。すごい。

内容/あらすじ/ネタバレ

八丁堀の岡崎町。北町奉行所、臨時廻り同心の椙田忠右衛門の組屋敷もこの一角にある。忠右衛門も他にもれず、地所の一部を貸し与えている。幇間の桜川今助と汁粉屋「弁慶」を営む茂次である。

のぶはこの家の嫁である。年が明けて二十四だった。舅と姑も気さくで優しくしてくれる。子供はいない。子供は二度身籠もったが、二度とも流れた。夫の正一郎は北町奉行所で隠密廻りの同心をしている。

桜川今助が忠右衛門を訪ねてきた。黄身返しの拵え方を仕入れてきたというのだ。この話に忠右衛門は飛びついた。

忠右衛門は卵料理が大好きである。百あるといわれる卵料理の半分以上は食べている。この黄身返しも卵料理である。だが、忠右衛門は今助のもってきた情報は眉唾だと思っているようだ。

…のぶは夫の正一郎と性格が合わないと思っている。この頃では別の人が正一郎の奥さんにふさわしいのではないかと思う。正一郎はのぶと祝言を挙げる前思いを寄せていた娘がいたという。その娘に手痛い失恋をしたようなのだ。

それもあるのか、のぶは正一郎に嫌われている気がする。それが辛い。この先、いつまでも正一郎との間に愛情が通わないのなら、それなりの手を打つべきではないか。

…実家に離縁のことを相談したのぶ。折り悪く、正一郎の手がけていた事件が不義密通だったこともあり、正一郎は荒れた。

しばらくの間、のぶは伯母の所に身を寄せることにした。だが、ここもあることがあっていられなくなってしまう。

舅の忠右衛門やふで、今助にも心配をかけていた。実家に戻っても、甥の冬馬に心配され、一度正一郎と話してはといわれる始末。

その正一郎と話す機会が巡ってきたが、どうにも互いの溝が埋まらないような感じである。

そうしている間に、忠右衛門はのぶのために女筆指南の助手の仕事を持ってきてくれた。だが、ここでは、女筆指南・おひでの息子・輝助を巡る事件に巻き込まれようとしていた…。

本書について

宇江佐真理
八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし 卵のふわふわ
講談社文庫 約三一〇頁

目次

秘伝 黄身返し卵
美艶 淡雪豆腐
酔余 水雑炊
涼味 心太
安堵 卵のふわふわ
珍味 ちょろぎ

登場人物

のぶ
椙田忠右衛門…舅
ふで…姑
椙田正一郎…夫
お君…女中
門九郎…中間
次郎助…下男
桜川今助…幇間
すみ…のぶの母
かな江…嫂
磯谷恵兵衛…のぶの兄
冬馬…甥
さつ…伯母
良助
おひで…女筆指南
輝助…息子
おゆう
福蔵

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