小松和彦「異界と日本人」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

日本における「異界」を論じた本です。

異界はあらゆるところにあります。そして、そこに妖怪が出没するのです。

鬼は山や門、橋などに出没します。河童は水辺に出没します。

山や門、橋、水辺など、これらが異界との境界だからです。

例えば、14世紀前半に製作されたとされる「長谷雄草紙」では、平安時代の学者・紀長谷雄と朱雀門に棲む鬼が双六の勝負をします。鬼は門に出没しています。

次の二冊も併せて読むのをおススメします。

反魂の秘術

13世紀中頃に書かれた「撰集抄」には西行が人を作ったという話が載っています。「反魂の秘術」の伝承を踏まえたものですが、密教や陰陽道の宗教者の一部では秘術が信じられていた事を示唆しています。

「反魂の秘術」は陰陽道系の宗教者の中で特に説かれていたものだったようです。

中世後期頃から陰陽師たちの間で、陰陽道の秘術・極意を書き記した「金烏玉兎集」が伝えられていました。

陰陽道と鬼

陰陽道はことさらに鬼の思想を説きました。鬼の伝承を含んだ異界物語の背後には陰陽師が見え隠れします。

大江山に棲む酒呑童子を頭とする鬼の一党を、源頼光と四天王が退場する話も、陰陽師の安倍晴明の占いが発端になります。

ここでは物語の生成に陰陽道と密教の双方に通じた陰陽師法師が深く関与していたことが暗示されています。

酒呑童子伝説は陰陽師たちの「鬼」信仰を母胎に生み出された物語と言えます。

また、酒呑童子伝説は黒田彰氏によれば中国の白猿伝の影響を受けていると考えられます。

妖怪狐

酒呑童子伝説に劣らぬほど有名なのが玉藻前伝説です。

ここでも重要な役割を担うのが陰陽師です。物語では宗教者が主役になり、武士が脇役になっています。

王権を守護する力が武力のみでなく呪力にも依存している事を強調しています。

酒呑童子伝説も玉藻前伝説も一種の王権説話の性格を有しています。

退治された酒呑童子の首と妖狐の遺骸は宇治の宝蔵に収められましたが、田中貴子氏は、宇治の宝蔵を、王権の支配力が弱まり、王朝の終焉と中世の黎明との間に出現した一個の幻影城と評しました。

俵藤太

平安時代中期の武将である俵藤太こと藤原秀郷には百足の妖怪を退治したという伝説があります。

この伝説は今昔物語の巻26に見える蛇と百足の争いを語った物語の影響を受けていると考えられています。

これに影響されたのが中世に作られた「日光山縁起」の日光の二荒山の神(蛇)と赤城山の神(百足)との争いです。日光の戦場ヶ原に伝わる伝説です。

二荒山の神の助っ人となったのが弓の名人である猿丸太夫でした。

蛇と百足の争いに英雄が介入する物語群の一角を占めるのが藤原秀郷伝説なのです。

龍宮

藤原秀郷に助けを求めたのは瀬田の橋の下の龍宮の主でした。

秀郷は龍宮から数々の贈り物を持ち帰りました。蒲生家にはこの幾つかが家宝として伝わり、規模は小さいものの王権の宇治の宝蔵と同じく権威を与える機能を果たしました。

龍宮といえば浦嶋太郎の物語を思い浮かべますが、龍宮には多重のイメージが与えられました。

龍宮の異界観が流布する過程で、古代中国の仙界思想、地下に想定された地獄の閻魔宮、山奥の鬼が城のイメージも龍宮のイメージに即して描かれるようになりました。

浦嶋太郎は悲劇的な結末で終わりますが、約束を破る事で人間界と異界の関係が切れたことと、時間の流れが異なることによるものでした。

龍宮には不思議な座敷があり「四方四季の座敷」「四方四季の庭」と呼ばれています。東西南北の庭に春夏秋冬の季節が展開しており、それこそが不老不死の世界を表現しています。

異界で流れる時間が異なるのは他の物語でも見られる傾向です。

源義経の虎の巻

虎の巻の由来は中国の兵法書「六韜」の6巻のうちの1巻に由来します。文、武、龍、虎、豹、犬のうちの虎が日本では特別視されたのです。

天狗

陰陽師が想定する悪霊の代表の一つが鬼ですが、仏教の密教系山岳宗教者に敵対する悪霊の代表格が天狗でした。

天狗は陰陽師の前にはほとんど現れず、好んで僧の前に出没しました。

平安時代には鬼や狐が国家を乱す妖怪でしたが、中世になると天狗になります。

妖怪の衰退

古代から中世に登場した妖怪は国家を脅かすパワーを持っていましたが、時代が下ると衰退していきます。

神々への信仰の衰退が、同時に妖怪信仰の衰退をもたらしました。

妖怪は人間の敵対者でしたが、同時に神々の敵対者であり、神々への依存が弱まれば、神々の否定的な分身である妖怪への関心も低くなるのです。

その結果、スケールの大きな自然的妖怪は衰退し、代わって新しい人工物から現れた古道具の妖怪が登場しました。つくも神です。

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