安住洋子の「しずり雪」を読んだ感想とあらすじ

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覚書/感想/コメント

第三回長塚節文学賞短編小説部門大賞。

水野忠邦による天保の改革の時期を舞台とした短編集です。天保の改革については「テーマ:江戸時代(幕藩体制の動揺)」でまとめていますのでご参照ください。

短編集ですが、岡っ引きの友五郎がすべての短編に関わっています。

友五郎が主人公となる作品はないのですが、友五郎を中心とした緩いつながりの連作短編とも見ることができます。

そしてすべての作品が「死」というものが重要な要素となっています。

「しずり雪」では孝太の幼馴染である作次の死、「寒月冴える」では医師・高橋淳之祐が関わった荘介という男の死、「昇り竜」ではおさとの父・留造の死、「城沼の風」では浅丘祐真の実父・沢木祐三郎の死…。

すべての「死」の理由はことなりますが、作者が描きたかったのは、「寒月冴える」で高橋淳之祐が岡っ引きの友五郎にいう次のセリフなのではないでしょうか。

『親分も無駄だと思うのですか。死んでしまった者に手を貸すのは、無駄なことですか。最後の最後まで、皆、懸命に生きたのです。私は、父上が腹を召すそのときまで、息を止めるそのときまで、父上がどんな思いだったのか、その思いに寄り添いたいのです。最期の、最期の一瞬まで愛しいのです。死んでしまったらそれで終わりだとは、私には思えません。それは、愚かなことですか』

最後の最後まで懸命に生きた人の姿を描きたかったのでしょう。

姉妹作として若き日の岡っ引きの友五郎を主人公とした「夜半の綺羅星」があります。

内容/あらすじ/ネタバレ

しずり雪

老中水野忠邦の改革により奢侈取締りが始まってから贅沢品や娯楽品が禁止となった。蒔絵職人の孝太はたちまち仕事がなくなった。腕の見せどころの螺鈿や金銀などを使う仕事はここ一年ほどありついていない。

そんな中、作次が孝太にうめぇ話を持ってきた。ある店が旗本から頼まれた品で婚礼道具に入れたい贅沢品だった。仕事をするだけで二両ももらえるという。

孝太は十二歳で奉公に出た。以来十年余り蒔絵の修業を積んで、昨年幼馴染だった小夜と所帯を持ったばかりである。

作次が持ってきた話は、下手をすると危ない仕事かもしれない。だが、納得のいく仕事をしたい孝太は、やらせてくれと言った。

小夜は孝太より五つ下である。二人は今の住まいに程近い六間掘町の裏店育ちである。その頃の、孝太の友達は七つくらいまでは作次で、八つから十二歳までは小夜だったのだ。小夜は孝太にとって一番近い存在、妹のようなものだった。

奉公に出て三年。小夜が孝太の奉公先にやってきた。小夜が奉公に出るのだ。このとき孝太は小夜に年季が明けるまで待っていてくれと言った。迎えに行くからと。

そして小夜の年季があけるのを待って二人は所帯を持った。そこに現れたのが作次だった。

作次と孝太は三年前に偶然ある飯屋で再開した。以来、作次は孝太にたびたび金を借りるようになっていった。

なぜ作次に金を貸すのか、孝太にとって説明が難しい。自分の中にも作次のような部分があるからかもしれない。

作次が品物を取りに来た。

岡っ引きの友五郎親分が孝太の家を力任せに叩いた。そして作次が死んだといった。殺されたらしい。死の直前まで作次は孝太の名を出さなかったらしい。背後には危ない連中がいるようだった…。

寒月冴える

高橋淳之祐は小石川養生所の医師である。おえいがどこに行くのかと聞く。淳之祐は本所入江町の裏店に行こうとしている。弥左衛門店の長吉というものを訪ねて行くのだ。

男は千駄木団子坂の田圃に倒れていた。打撲がひどかったが、それよりも重度の労咳だった。

男は荘介と名乗り、自分の住まいに行って全部で二両ほどの金子などを取ってきてほしいという。

その荘介がほどなくして死んだ。淳之祐は居てもたってもいられなくなった。それは医師の務め以外のことであり、無駄なことだと重々承知だったが、自分を抑えられなかった。

裏店につくと、後ろから友五郎親分が駆け込んできた。おえいから頼まれたのだ。

長吉はおらず、賭場に行っているようだった。賭場で長吉をつかままえた二人は、荘介の金子を奪い返し、荘介の妹に渡しに行った。だが、すでに妹は死んでいた。残されていたのは妹の子供だった…。

昇り竜

おさとの父親の留造が誰かに襲われて、ひどい状態だと庄三が飛び込んできた。留造を担いで運んだのは庄三と松吉だった。なぜそうなったのかおさとには訳がわからない。

おさとは夫の勘助と別れて、父親の面倒を見ようと思っていた矢先のことだった。

家には松吉らのほかに岡っ引きの友五郎もいた。友五郎は留造の背中を見た。無傷だった。その背には昇り竜の刺青がある。二年ほど前に亡くなった江戸一番の刺青師・彫柾の仕事だ。だが、留造にとってこの刺青はお荷物だったのだ。

松吉に婿入りの話が持ち上がっているらしい。それを聞いたおさとの胸に痛みが走った。

友五郎は友五郎で、おさとと松吉の間には約束ができていたのだろうと思っていただけに、二人が進むべき道を何かの拍子に間違えたのではないかと思えてならなかった。

留造は、のらくら遊び呆けていても、人が良く、甲斐性のない男にも関わらずおさとも母も近所の者からも嫌われなかった。

留造がこさえた借金のためにおさとは茶屋勤めにでることになった。茶屋勤めは綺麗ごとばかりでない。日々汚れていく自分を見て、おさとは松吉のことをあきらめるようになり、知り合った客の勘助と所帯を持つことになった。勘助は春日屋という小間物屋を営んでいる。

友五郎は忙しかった。ひと月ほど前から貞次という元上方の盗人が江戸に入ってきたというのだ。

その合間を縫って友五郎は小石川養生所の高橋淳之祐に留造を見てもらった。淳之祐は留造が十日持つか持たないかだという。以前からすい臓が相当悪かったようだ。

留造を襲ったと思われる三人組の一人が死体で見つかった。

一方で留造の具合が悪くなってから、おさと夫婦が泊まり込みで看病していた。おさと自身勘助の変わりように驚いていた。今までの勘助の留造に対する接し方と違っている。

留造が死の直前、友五郎に「やげんたに、早くって」と言い残した。おさとに聞くと矢源太という昔馴染みがいたようである。

勘助に別れ話を切り出そうとしたところ、勘助が伊勢に行こうという。白粉を探しに行こうというのだ。

その頃、友五郎は留造が襲われた時の目撃者の話を聞いた。そして、まさかという思いがした…。

城沼の風

秋葉銀十郎は筆頭家老安藤照國の遠縁にあたる。沢木祐三郎が藩庫から三百両が消えているのはなぜかと尋ねられたところで、秋葉は沢木を斬った。

沢木家は祐三郎の死後、下級藩士の組長屋に屋敷替えを命じられた。父の死後、倅の祐真の跡式相続は許されたが、百五十石の家禄は三十石に減らされた。

美代が実家を訪ねてきたのは、祐真が道場で騒ぎを起こしたからであった。訪ねてきた美代を見て祐真はすまないと思った。

祐真に突如として養子の話が持ち上がった。それは町火消人足改方与力の家である。番頭の遠野朔之丞が用意した話であった。遠野は「儂にできることは限られている、このくらいのことしかできない」といった。

遠野は本気で祐真を江戸に逃がそうと考えていたのだった。

沢木祐真は浅丘家の養子となり、浅丘祐真と名を改めた。そして二年ほどたって婚約した。相手は千歳という。

千歳の実家・平松家と浅丘家は昔から行き来があり、生まれ落ちた時から縁づいていたようなものだった。

水野忠邦の罷免を前後して、二年続いた奢侈禁止令が消滅した。

祝言をあげてから、祐真は普段の暮らしに戻った。そして千歳も嫁いで落ち着いたころにお針の稽古に出るようになった。

親しい友人の五十幡弘江と話しているうちに、辻斬りの話が出てきた。千歳は知らなかったのだが、本所や深川で出るのだという。弘江の父も、祐真もそれを追いかけているはずだという。

辻斬りはなぜか武家ばかりを斬るのだという。

千歳は五十幡真吾と友五郎親分から祐真に関する話を聞かれた。

それから幾日か千歳の気の休まらない日が続いた。そうした中、祐真を訪ねてきたのは、祐真の幼馴染だという羽鳥誠志郎だった。

祐真は千歳に謝った。五十幡にも友五郎にも相談すべきだったという。祐真は辻斬りのあった時に下手人を見たのだ。そして、それが父を斬った秋葉銀次郎だったので、ひたすら追いかけてしまったのだ。

本書について

安住洋子
しずり雪
小学館文庫 約四〇〇頁

目次

しずり雪
寒月冴える
昇り竜
城沼の風
 一、虎落笛
 二、狭霧

登場人物

(共通の登場人物)
友五郎…岡っ引き

しずり雪
 孝太
 お小夜…孝太の女房
 作次…孝太の幼馴染

寒月冴える
 高橋淳之祐…医師
 おえい
 長吉
 荘介
 おきみ
 おやえ…おきみの娘

昇り竜
 おさと
 勘助…おさとの夫
 留造…おさとの父
 松吉…大工
 庄三
 貞次…盗人
 五十幡真吾…同心
 高橋淳之祐…医師
 新助…友五郎の下っ引き
 矢源太

城沼の風
 浅丘祐真(沢木祐真)
 千歳
 浅丘新右衛門
 浅丘野江
 五十幡弘江…千歳の友達
 美代…祐真の姉
 沢木祐三郎…祐真の父
 羽鳥誠志郎
 秋葉銀十郎
 水木麻右衛門
 遠野朔之丞

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